SSブログ

『駆け込み訴え』のこと [ステージ]

太宰治の短編小説に、イスカリオテのユダを主人公にした『駆け込み訴え』という作品がある。
短編なのであまり長くないが、全編がユダの独白で綴られている。
いわゆる「ユダの裏切り」のまさにそのものの描写である
あ、主人公がユダであることは最後にわかるんだけど。

劇団四季のミュージカルの中の重要な作品に、『ジーザス・クライスト=スーパースター』という作品がある。
この作品の中では、ユダはいわゆる「狂言回し」の役を勤める。もちろん、ユダヤ教の司祭にジーザスを売る場面があるわけだが、その場面をユダ側から描写している作品が、ミュージカルの出来る遥か前から存在していたわけですね。

今回観た『駆け込み訴え』は、劇団四季でユダ役を務めたキムスンラさん(劇団四季での芸名は金森勝)が一人芝居で上演したものです。
劇団四季のJCSで、スンラさんのユダを観た時の衝撃は今でも頭の中に見事な映像となってよみがえってくる。それまで長らく観て慣れていたキヨミチのユダとは全然違う。まるで、本物のユダの狂気じみた状態に追い込まれていく姿が乗り移ったような、とにかく強烈な印象をもったものだ。
その時は、自由になる時間がたくさんあったので、東京公演で10回以上。続く京都公演も5回は観た。
観るたびにどんどん引き込まれていく。でも、冷静になると、身体が持つのだろうか?と毎回カーテンコールまで、ヒヤヒヤしながら観てもいた。
一言で言うと、『一人の人間としてのユダ』が表されていたように思う。

翻って、今日観た『駆け込み訴え』。
これは元々、太宰が人間の本性を描いたような作品で、『スンラさんのユダ』はそれそのものであった。
人間であるユダが、人間であるジーザスを敬い、愛し、ジーザスがおのれのすべてだったユダが、ジーザスに「裏切る」と宣告され、すべてが爆発し、絶望し、駆け込み訴えを行う。

観ていて辛かった。ユダの悲しみ、悔しさ、絶望、多くの負の気持ちが伝わってきて辛かった。
でも、観に行ってよかった。この作品に立ち会えたことがうれしかった。
まだ、20日の14時からの公演があるので、時間がある人は是非、観に行ってほしい。
場所は、遊空間がざびぃ 、当日券があるはず。

ところで、キムスンラさんとの一方的出会いは、かなり昔にさかのぼる。
劇団四季でいまでも折に触れて上演されている「ソング&ダンス』シリーズの『オーバーザセンチュリー』と副題がついた、ちょうど20世紀と21世紀にまたがった時期に上演されていた中で、まだ四季に在籍されている明戸信吾さんとの二人での日本未上演のミュージカルナンバーの一部(ここら辺、曖昧です。パンフレットが見つかればちゃんと書けるんだけど)を歌ったところに、『劇団四季にはこんなに歌える人がいるんだ』と驚いたとき。
他の作品にもすでに出演されていたはずが、まったく気がつかなかった。
それ以来、気になって、パンフレットに名前が載っていると喜んだものだ。
キャッツの、こんなのやってられねーぜっと、やる気の無いラムタムタガーも良かったけれど、他の作品は出演されている作品は『ライオンキング』のスカーか。あれも良かった。

でも、劇団四季からは離れたわけで、これからは色々な活動をされるはず。
舞台とかは観に行けるものは観に行きたいと思う。
チケットぴあからの知らせメールで『twelve』を知り、出演者にスンラさんが四季を退団されていたことを知り、『twelve』を観て、その時にこの『駆け込み訴え』を上演されるのを知り、観に来れてよかった。
運が良かったです。

しかし、今日、男性客が私一人だけだった。
う〜ん、複雑な心境。

とりあえずスンラさんのHPへのリンクを貼っておきましょう→こちら

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。